「男性はこういうもの」「女性には、このやり方が向いている」
そんな話に「脳科学の研究によると」がつくと、急に説得力が増す。
なるほど。だからあの人とは話が合わなかったのか。
そう納得したくなる。でも、その納得の前に、ひとつ確かめたい。
その研究は、本当に男性と女性の違いを調べたのだろうか。
「違う」と書いた200本を確かめたら
2026年8月4日にオンライン公開されたPNASの論文は、性別やジェンダーによって効果が異なると、題名で主張している脳・行動科学の論文200本を点検した。
対象には、人の研究だけでなく、動物を調べた研究も含まれている。
適切な方法で二つの集団の効果を比べ、その結果が題名の主張を支えていたのは24%だった。
- 約58%は、性別の間で効果の違いを直接調べていなかった。
- 約9%は、適切な検定について書いていたが、結果が不完全か、記載されていなかった。
- 約9%は、結果が題名の主張と矛盾していた。
ただし、これは「男女差は存在しない」と証明した研究ではない。選ばれた200本について、「違う」と主張するために必要な比較を、きちんと行っているかを確かめた研究である。
出典:PNAS原著論文(2026年8月4日オンライン公開/著者抄録・図の説明)
平均5点アップと、平均4点アップ
ここからは、違いをつかむための架空の例で考えてみよう。
ある勉強法を試したところ、女性のグループはテストの点が平均5点上がり、男性のグループは平均4点上がったとする。
女性のグループでは、研究で使った統計の基準を満たし、「上がったと判断するだけの根拠が得られた」。男性のグループでは、その基準に届かず、「上がったとは、まだはっきり言えない」となった。
これが「女性では有意、男性では非有意」という言い方に相当する。
さて、ここから「この勉強法は女性にだけ効く」と言えるだろうか。
男性も平均4点上がっている。人数が少なかったり、人によって点数の動きが大きく違ったりすれば、結果ははっきりしにくくなる。
「はっきり言えない」は、「効果がゼロだと分かった」ではない。
そして、女性の5点アップと男性の4点アップに、確かな違いがあるのかどうかは、もう一つ別の問いになる。
それぞれのグループで「変わったか」を調べるだけでは足りない。二つのグループの「変わり方」を、直接比べる必要がある。
もちろん、実際に違いが確かめられることもある。大切なのは、比べる前に答えを決めないことだ。
分かりやすい分類は、相手を見る手間を省いてしまう
「男性脳だから」「女性は共感を求めるから」
こうした説明は、会話の中ですぐ使える。覚えやすいし、誰かを理解した気にもなれる。
けれど、その言葉を使った瞬間に、目の前の人へ聞かなくなっていないだろうか。
この人は、いま話を聞いてほしいのか。それとも、一緒に解決策を考えてほしいのか。今日はどうなのか。
本人に確かめれば分かることを、分類の説明で済ませてしまう。そこに、すれ違いが生まれる余地がある。
ここからは、今回の研究を踏まえたPCMでの学びへの応用である。研究がPCMや性格分類そのものを検証したわけではない。
分類を使うなら、相手への質問を増やすために使いたい。
「このタイプなら、こうに違いない」で終えず、「こういう伝え方はどうだろう」と試し、本人の反応を確かめる。
「人によって違う」を説明するときの四つの確認
性別でも性格のタイプでも、「この人たちは違う」と説明するときは、次の四つを一緒に考えたい。
- 本当に二つを比べたのか。片方で結果が出たという話だけで、もう片方との違いまで言っていないか。
- 同じグループの中では、どれくらい違うのか。一つの名前でまとめられた人たちも、全員が同じではない。
- 平均の話を、この人に当てはめてよいのか。グループの平均が違っても、それだけで目の前の一人の答えは決まらない。
- 一緒に起きていたのか、変えた結果なのか。ある特徴と結果が結びついていたことと、その特徴が結果を起こしたことは分けて考える。
難しい数式を覚える前でも、「何と何を比べたの?」とは聞ける。
説明する側も、分からないところを分からないまま示していい。そのほうが、聞く人は自分の状況と照らし合わせやすくなる。
相手を知ったつもりになる前に
意識進化という言葉を日常へ引き寄せるなら、私は「いまの自分の分かり方を、もう一度確かめられること」と考えたい。
新しい分類を一つ覚えるだけでなく、その分類で見落としているものに気づく。科学的な言葉がついていても、結論へ飛びつく前に、確かめた範囲を見る。
今日の咒術は、こうなる。
「一方で見え、他方で見えなかったことは、両者が違う証明ではない」
これは「何も信じるな」という話ではない。信じる範囲を、確かめられた範囲に合わせよう、という話だ。
君が「あの人はそういう人だから」と思ったとき、見ているのは本人の反応だろうか。それとも、覚えた分類の説明だろうか。
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