集中できない日が続くと、「気合が足りないのかな」と考えてしまうことがある。
そんなとき、食卓のトマトが注意力に関係するかもしれない、と聞いたらどうだろう。
バルセロナ大学などの研究チームが、健康な中年期の成人を対象に、濃縮トマトペーストを食べる実験を行った。結果は、注意力などの一部のテストで改善が見られた、というものだった。
身近な食べ物の研究だからこそ、期待は膨らむ。ただ、「トマトで脳が若返る」と言う前に、何を比べ、何が変わったのかを見てみたい。
同じ人が、二つの食生活を経験した
研究に登録したのは、40〜55歳の健康な成人47人。そのうち42人が最後まで参加した。論文は2026年5月19日、学術誌『Antioxidants』に掲載されている。
参加者は、濃縮トマトペーストを毎日食べる3か月と、トマトなどに多い赤い色素「リコピン」を含む食品を制限する3か月の、両方を経験した。間には1か月の休止期間を設けた。
どちらを先に行うかは、無作為に決めた。これを「ランダム化クロスオーバー試験」という。同じ人の二つの期間を比べることで、もともとの能力や体質の個人差を抑えて調べる方法だ。
ペーストの量は、体重1kgにつき1日0.5g。参加者の平均は1日34.6gで、その中にリコピンが約38.4mg含まれていた。これは研究用のペーストで実測した値なので、市販品を同じ重さ食べれば同じ条件になる、という意味ではない。
改善したのは、注意力などの「一部」
二つの期間を比べると、トマトペーストを食べた期間には、次のテスト得点が平均で高くなった。
- 必要なものへ注意を向け、集中して作業する成績:7.2点
- 情報を処理する速さの成績:8.3点
- 顔と名前を正しく対応づける記憶の成績:0.8点
これらは別々のテストの点数なので、数字の大小で効果を比べることはできない。また、「注意力が7.2%上がった」という意味でもない。
たくさんの項目を調べると、偶然に良い結果が出ることがある。研究では、その影響をテストごとに統計的に調整しても、この三つの差は残った。
一方、連想記憶の総合得点や、課題のルールを切り替えるなどの能力では、二つの期間の明確な差は確認できなかった。「記憶力全体が良くなった」と広げて受け取るのは早い。
そして、仕事のミスが減ったか、読書に集中できる時間が延びたか、といった日常生活の変化は測っていない。テストでの改善が、暮らしの中でどのくらい実感できるものなのかは、まだわからない。
脳画像は、「脳が良くなった写真」ではない
この研究では、脳の画像も調べている。ただし、対象は14人で、各期間の解析人数はさらに少なかった。
トマトを食べた期間には、安静にしているときの、一部の脳領域どうしの活動の連動が弱くなった。研究者は、余分な連動が減り、効率が高まった可能性を考えている。
ここで、「可能性」という言葉を外さないことが大切だ。
脳の活動は、強ければ良く、弱ければ悪い、という単純なものではない。今回報告された画像の変化は、多くの場所を調べることによる偶然の影響を補正していない、探索的な基準による結果だった。
つまり、次の研究で確かめる手がかりであって、脳の配線が整ったことや、脳が若返ったことを直接示す写真ではない。
神経の働きや変化に関わる「BDNF」という物質も血液で調べたが、増加の結果は統計的にはっきりした境目付近で、前の摂取期間の影響も残っていた。働きの仕組みについては、まだ検討が必要だ。
「何と比べたか」で、意味が変わる
この研究を読むうえで、私が特に押さえたいのは、比較相手が「いつもの食事」ではなかったことだ。
リコピンの多い食品を制限した期間と比べている。普段からトマトを食べている人が、さらに追加したら同じ改善が起こるかは、この結果だけではわからない。
また、参加者は自分がトマトを食べていると知っていた。期待やテストへの取り組み方が影響した可能性は残る。一方、血液や脳画像の解析担当者には、割り当てを伏せていた。
無作為に順番を決めることと、何を食べているかを本人に知らせないことは、別の工夫だ。本人が知っているからといって、ランダム化試験でなくなるわけではない。
さらに、食べたのはリコピンだけではなく、トマトという食品だ。他の成分が関係した可能性もある。高用量のリコピンサプリで同じことが起こる、と読み替えることはできない。
食べ物の話を、希望のまま丁寧に受け取る
今回の結果は、食事が中年期の注意力に関わる可能性を示す、有望な小規模研究だ。認知症の予防や治療、長期的な脳の若返りまで確かめた研究ではない。
それでも、関心を持つ価値はある。
ここからは研究結果そのものではなく、私の日常への受け取り方になる。集中できない自分をすぐ責める前に、集中しようとしている身体が、どんな毎日を送っているかにも目を向けたい。
同時に、一つの食材へ期待を全部預ける必要もない。「効くか、効かないか」を急いで決めず、何がわかり、何がまだわからないかを分けておく。その余裕があると、健康情報に振り回されにくくなる。
食卓にトマトを取り入れる楽しみと、研究を慎重に読むことは、両立する。
君は「これが脳にいい」と聞いたとき、何と比べて、何が良くなったのかまで、確かめているだろうか。
原論文
López-Solís R, et al. “Tomato Intake Improves Cognitive Performance and Modulates Functional Brain Networks in Healthy Adults: A Randomized Crossover Clinical Trial.” Antioxidants. 2026;15(5):644.
原論文を読む(公開日:2026年5月19日)
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