強い言葉をかけたら、相手が動いた。いつもより頑張った。結果も出た。
「ほら、厳しく言ったほうがいいんだ」
そう結論したくなる場面がある。自分に対しても同じだ。「こんなこともできないのか」と責めたら、どうにか仕事を終えられた。だから、この言い方が自分には必要なのだと思う。
けれど、そこで一つ、聞きそびれていることはないだろうか。
動けた本人は、その時間をどう経験していたのか。
30秒間で出せた力と、30秒間に感じたつらさ
2026年9月10日、『Frontiers in Psychology』に、運動中の声かけを比べた研究が掲載された。
参加したのは、スポーツ科学を学ぶ健康な大学生40人。回転する装置の慣性を利用して負荷をかける機器で、30秒間、最大限の力を出してスクワットを行った。
同じ人が、無言、肯定的な声かけ、否定的な声かけの三条件を、順番を無作為に決めて別々の日に経験した。これが「無作為化クロスオーバー研究」だ。
結果は、肯定的・否定的な声かけの両方で、無言のときより最大の力と平均の力が高かった。否定的な条件では、肯定的な条件よりも力の出力が高かった。
一方で、否定的な条件では、本人が感じる運動のきつさも増えていた。
ここで測られたのは、運動直後に答えた「どれほどきつかったか」という自己評価だ。心理的な傷、自己肯定感の低下、回復の遅れを直接示したものではない。より力を出したこと自体が、きつさに関係した可能性も切り離せない。
それでも、出力の数値だけを見たときと、本人の経験も一緒に見たときでは、結果の受け取り方が変わる。
「効いた」の中身を、もう少し詳しくする
この実験から、仕事でも勉強でも厳しい言葉が有効だ、と広げることはできない。短時間の最大運動と、毎日続く学びや仕事では、求められるものが違う。
また、研究で調べたのは外からかけられる言葉であり、自分で自分に話すセルフトークそのものではない。長期的な心理への影響や、次回の意欲も検証していない。
その範囲を押さえたうえで、私は「言葉が効いた」という評価を、少し詳しくしたいと思う。
行動を始められたのか。短時間だけ出力が増えたのか。安心して試せたのか。終えたあとにも、また取り組みたいと思えたのか。
これらは、同じ質問ではない。
一つの数字が良くなったからといって、ほかも全部良くなったとは限らない。逆に、きつかったという理由だけで、その挑戦に価値がなかったとも言えない。
本人が望んで引き受けた負荷なのか。調整できる余地はあったのか。そうした話まで含めて、言葉の働きを考えたい。
結果のあとに、本人へ戻る
ここからは、この研究で効果が実証された方法ではなく、私が講座や日常のセルフトークへ応用するための提案だ。
声をかけて動けたあと、四つを確かめてみる。
- 何の行動が始まり、どこまで進んだか。
- 本人が感じる負担は、どう変わったか。
- 終了後、休んだり気持ちを切り替えたりできたか。
- 次回も、自分から取り組めそうか。
たとえば、課題を終えた人に「やればできるじゃないか」で話を閉じず、「どの言葉が助けになった? かえってやりにくくなった言葉はあった?」と聞く。
自分に対してなら、締め切りを守れたことを認めたあとで、「終わった今、自分に何が残っているだろう」と確かめる。
達成感があるかもしれない。疲れはあるけれど納得しているかもしれない。次の仕事を考えるだけで身構えてしまうかもしれない。
その違いを、次の言葉を選ぶための情報にする。成果が出たことを理由に、本人の答えを取り消さない。
自分の価値を裁く言葉から、次の動作を示す言葉へ
「私はだめだ」と言いながらでも、仕事が進む日はある。
けれど、その言葉の中には、次に何をするかが書かれていない。人間としての自分全体を裁いているだけになっていないか。
私は、日々の実践では、もう少し具体的な言葉を選びたい。
「なぜこんなこともできない」ではなく、「まず資料を開いて、一行書く」。
「絶対に失敗するな」ではなく、「今、確かめられる一か所を確認する」。
「もっと頑張れ」だけで追い立てる前に、「次の一回に集中する」。疲れているなら、「ここで休んで、続け方を決める」。
これらの言い換えが誰にでも最も有効だと、この研究が示したわけではない。自分を傷つけずに行動を具体化するための候補として、反応を見ながら選んでほしい。
「まだ力を使える」という言葉も、本人の状態に合っているときに使う。使えない力まで、言葉であることにしなくていい。
頑張れた自分を認めながら、言い方は変えられる
厳しく言われて頑張ってきた人が、その経験を全部否定する必要はない。実際に積み重ねたものはある。
同時に、これからも同じ言葉でしか動けない、と決める必要もない。
私が意識進化として考えたいのは、成果を見る視野の中に、その成果を出した人の経験も戻すことだ。
行動できたことを喜ぶ。そのうえで、どんな負担があり、次はどう支えられるかを考える。
言葉の評価を、動かす側の満足だけで終わらせない。自分へかける言葉なら、動いたあとの自分の声も聞く。
今日の咒術
強く動けたことと、よく支えられたことは同じではない。
君が今日使った励ましは、行動したあとの君に、どんな気持ちを残しているだろうか。
原論文
Aydın GR, Kasap M. “The effects of motivational verbal phrases on isoinertial force production and sustained force output: a comparison of positive and negative conditions.” Frontiers in Psychology(2026年9月10日公開)。
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